法律の豆知識相続の放棄について4

相続が発生した場合,亡くなった方の資産だけでなく負債も相続するということは既にお話いたしました。

一般に遺産分割協議においては,亡くなった方の資産の分け方に目を奪われがちということも既にお話ししました。

亡くなった方の負債を見過ごして資産だけを分ける遺産分割協議をすることの危険性についても既に述べたとおりです。
具体的にいえば,何も資産は相続しなかったにもかかわらず,後日負債だけ支払わなければならないという状況は起こりうるということでした。

相続放棄に関する一連の話の冒頭で「相続を放棄しました」という一般的な認識には大きな誤解が含まれていると述べました。

今まで,親が不動産を持っていたが,300万円の負債を負っていたという事例でお話をしていましたが,これを今回も続けて利用すると,以下のような場合も想定できます。

亡くなった親がもっている不動産が300万円の価値がない場合です。つまり,親の資産状態が債務超過のような状態です。
このような場合に有効なのが法律上の「相続放棄」です。

相続が発生しても,亡くなった方が多額の負債を抱えていたということは十分考えられることです。
このとき,いくら預貯金・有価証券をたくさん持っていても,トータルで見ればマイナスであれば,よほどの事情がない限り,相続しようという人はいないはずです。

このように,いろいろな事情を総合して,亡くなった方の財産に対する権利義務を一切放棄することを「相続放棄」と言います。

この相続放棄は,自分でそのように主張するだけでは足りません。
家庭裁判所に対して,「相続放棄」の申立てをしなければならないのです。
比較的簡単な書式で,放棄が認められないというようなことも聞いたことがないので,さほど難しい手続ではありません。

しかし,注意しなければならないのは,この「相続放棄」ができる期間というのは法定されていて,亡くなった方の死亡を知ったときから3か月以内にしなければならないのが原則とされています。
この期間を過ぎると,亡くなった方の財産に関する権利義務を引き受けたことになってしまいます(法定単純承認)。

相続放棄を行うと,相続放棄を行った人は最初から相続人でなかったものと扱われます。
つまり,遺産分割協議に参加する資格がなくなり,いろんな書類に署名や実印を押す必要がなくなります。
また,他の相続人も相続放棄した人を無視して手続を進めることができるというわけです。
余談ですが,相続放棄をしたからといって,亡くなった方との親族関係がなくなるということにはなりません。

相続放棄後に債権者から負債の支払いを求められても,これに応じる法律上の義務はありません。

以上のように,遺産分割協議に参加して,何も資産を相続しなかったということと,法律上の「相続放棄」 は,大きな違いがあります。

積極的に「相続放棄」を推奨しているわけではありませんが,資産を相続しないことと「相続放棄」の違いについては,十分に理解しておいていただきたい内容だと思います。

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