相続が発生した場合,遺言書がなければ,相続人全員で遺産分割協議を行う必要があるという話しから,前回は話し合いがまとまらない場合のお話しをいたしました。
今回は,相続人の中に所在が不明な人がいる場合のお話をしたいと思います。
相続人の所在が不明な場合などということがあるのかという疑問をお持ちの方もおられるかもしれません。
確かにそういうことは少ないかもしれませんが,全くないとも言い切れないような事例だと思います。
例えば,亡くなった方の兄弟姉妹が相続人のような場合や,さらに相続人に亡くなった方の甥や姪が含まれる場合などです。
ここでいう所在が不明というのは,戸籍や戸籍の附票を追っていっても,所在が分からないことを指します。
具体的には,相続人のうち一部の人が海外に行ったっきりどこにいるのか分からない場合や,本当に行方不明のような場合です。
そういう方がいたからといって,その人抜きで遺産分割協議ができるかというとこれはできません。
遺言書がない場合の遺産分割協議は,あくまで相続人全員で行わなければならないのが,法律の定めです。
では,どう取り扱うべきか。
このような場合,所在が分からない人(以下,「不在者」といいます)の財産を管理する人を家庭裁判所に選任してもらい,不在者に代わって,遺産分割協議に参加してもらわなければなりません。その代わりの人を法律上「不在者財産管理人」といいますが,この不在者財産管理人が遺産分割協議の内容を承諾するためには,さらに,家庭裁判所の権限外処分行為の許可を取らなければなりません(そもそも失踪宣告を申立てるべき場合もあるとは思います)。
要するに,2回家庭裁判所の手続を要するということになります。
しかも,一般的に,不在者財産管理人は,遺産分割協議において,法定相続分を確保するように努めるでしょうから,不在者の取り分を法定相続分より少なくとか,ゼロにするということはかなり難しいでしょう。そういう協議内容なら他の相続人も応じないかもしれません。
こういう場合もやはり遺言が有効だと言えるでしょう。
その理由ですが,①遺言書で遺産分割協議を経る必要がないように定めることができる。すなわち,これは誰に相続させる。あれは誰に相続させるなど,きちんと遺産の分け方を決めておけば,不在者を探さなくても,相続を受ける側の人は困ることはありません。
②不在者の人に相続させないと定めることもできる(ただし,遺留分の問題が残る場合があります)。
③不在者に相続させたいものがある場合は,不在者財産管理人を選任してもらい,その人に遺産を管理してもらえば,家庭裁判所の手続が1回で済む。
以上のような理由で,相続人に不在者がいることが予想される場合も遺言は有効に機能するということがいえると思います。
次回は,③相続人の中に判断能力が衰えてしまい,分割の話し合いの内容が十分理解できないような方が含まれる場合について,お話ししたいと思います。