「相続放棄」という言葉がありますが,一般にお客様が「父の相続を放棄しました」というような場合,大きな誤解を含んでいる場合があります。
親が亡くなって,子供たちが相続をする場合,特に不動産については,子供のうちの特定の人(例えば,長男)が単独で相続する場合があります。
このことをもって,他の相続人の方々は,「不動産の相続は放棄をした」というようなお話をされることがあります。
しかし,このような表現には大きな誤解が含まれています。
確かに,不動産については相続をしていません。不動産に対する権利を放棄したということになるのでしょう。
しかし,預貯金や有価証券についてはどうでしょうか?
不動産を他の相続人に相続させる代わりに,預貯金を取得する相続人の方もいるのではないでしょうか?
そういう風に相続する財産を相続人間で話し合うことを遺産分割協議といいます。
そして,遺産分割協議に参加する相続人は,亡くなった方のプラスの財産に着目しがちです。
先ほど例に挙げた,不動産や預貯金・有価証券の類です。
それでは,借金のようなマイナスの財産(=負債)については,どのようになるのでしょうか?
相続人は,亡くなった方の借金を支払う義務はないのでしょうか?
そのようなことはありません。
相続人は亡くなった方の借金を支払う義務も相続してしまうのです。
例えば,亡くなった方が入院していた病院の入院費を相続人の誰かが(亡くなった方のお金から支出していたとしても)支払うのが一般でしょう。
それなら,すんなり納得できるかもしれませんが,亡くなった方の入院費も,負債であることに変わりありません。
入院費も,借金も亡くなった方の負債であることに違いはないわけですから,亡くなった方の負債についても相続人が相続するということについては,相続の前提知識として知っておいてもらいたい重要な事柄ということになります。