前回のお話しでは,遺言書がない場合に起こりうる問題点をいくつかお話しいたしました。
その中で,遺言書なく,①遺産の分け方で合意が形成できない場合について,どのようになってしまうのかをお話ししたいと思います。
遺言書がない場合は,全ての相続人が遺産の分け方について合意しなければなりませんでした。
相続人間で合意に至ることが困難な場合の解決策として,家庭裁判所の関与の下①どうにかして合意を形成するか,②何らかの形で分け方についての強制力を持った判断をしてもらうほかありません。
どうにかして合意を形成する方法として,家庭裁判所の遺産分割調停があります。
この手続は相続人のうち1名あるいは,複数の人がその他の相続人を相手方として家庭裁判所に調停を申立てるというところから手続が始まります。
調停の場では,調停委員が当事者の意向を聴取したり,提出された資料を考慮して,解決に向けた提案や助言を行うなどして,双方当事者の意見がまとまるように両当事者の間に入って,合意の形成を目指します。
ここで,合意が形成できれば,調停調書という公文書にその内容が記録され,その調書の記載に基づき,例えば預金を単独相続することとなった相続人は,他の相続人の協力を得ることなく,預金の解約手続を行うことができるようになります。
調停によっても合意が形成できない場合,それ以上話し合いを続けても無駄になってしまいますので,調停手続は終了し,審判に移行します。
審判に移行した場合,裁判官が審判という形で遺産の分け方を定めますので,遺産に関する争いはそこで終了するということになります。
先に述べた,②分け方についての強制力を持った判断というのが,この審判ということになります。
なお,法律上はいきなり審判を申立ててもよいということになっていますが,実際の運用上は,審判を申立てたとしても,先に調停を経るように,取り扱われるのが一般です。
遺産分割調停・審判の場においては,当事者の対立が激しく,相続人間で「長期にわたり親の介護をしたのだから,自分が遺産を多くもらうべきだ」とか,「他の相続人が生前に(家の購入や学費などについて)援助を受けたのだから,それを相続分から差し引くべきだ」とか,「遺産はもっとあるはずだ」など,様々な意見が主張され,収拾が付かなくなることもしばしばです。
最終的には審判という形で決着が付くわけですが,様々な意見を考慮する以上,短期間で審判に至るということはまずありえないでしょう。
実際にはあり得ない話ですが,もし調停や審判の場に故人がいたら,きっと「家は誰々が相続しなさい。預貯金はこういう具合にみんなで分けなさい。」など,きっちりと意思を表してくれることでしょう。また,故人にそう言われれば,争っていた相続人も納得せざるを得ないのではないでしょうか?
もしそうであるならば,故人としては自分が亡くなる前に,その遺産についての分け方を明確に示しておく方が望ましいのではないかと思います。