前回は,相続人の中に相続人の中に所在が不明な人がいる場合のお話をいたしました。
今回は,③相続人の中に判断能力が衰えてしまい,分割の話し合いの内容が十分理解できないような方が含まれる場合について,お話ししたいと思います。
相続人に分割の話し合いの内容が十分理解できない方がいるというのは,どのような場合でしょうか?
例えば,相続人の方が交通事故などに遭ってしまい,ずっと意識不明の状態である場合などが考えられます。
このような場合,そもそも,話し合いができる状況にないことは明らかです。
必要な書類に署名することもできないと考えられます。
こういう方が相続人に含まれている場合,そのまま手続を進めることができないのではないかというのは,何となくご理解いただけると思います。
最近では,相続人の中に,認知症の方や,精神障害の方が含まれている事案が散見されます。
先の例とは,異なる点があるとすれば,それらの方々は,意識不明の方と異なり,自分で書類に署名することができたり,一応の意思表示ができる場合が多いということです。
しかし,そのような方が相続関係の書類に署名し,実印を押印し,書類上相続人間に合意が形成できているような外形が整っている場合でも,法律ではその書類上にあられている合意の効力については,問題があるといわざるを得ません。
そもそも,相続にかかわらず,法律上の行為については,自分の意思で判断でき(自分の行為の結果を理解でき),それに基づいて契約行為などを行っていなければ,その法律上の行為は無効になるという原則があります(法律上の明文規定はありません)。
つまり,外形上,相続関係に関する合意が形成されているように見受けられても,そもそも全体としてその内容は効力を発揮しないということになります。
そして,外形上有効に合意が成立しているように見えますので,相続に関する手続が進行してしまい,遺産の分割が一応終了してしまう場合もあるでしょう。
また,認知症や精神障害の相続人の利益が損なわれている場合もあるでしょう。
さらに,問題があるのは,そのように自己の利益がないがしろにされても,その本人はそのこと自体を認識しておらず,自分の利益を回復することすらできない状態となってしまうということです。
ところで,前回,行方不明の方のために不在者財産管理人という制度があるというお話をしました。
これは,不在者の方のための制度という側面もありますが,不在者の代理人を選んでもらうことで遺産分割の話し合いができるという他の相続人のための制度という面が多分にありました。
本人に判断能力がない場合でも,その本人の代理人を選任するという制度があります。
これを,一般に成年後見制度といいます。
詳しくはまた別の機会にお話ししたいと思いますが,相続人に判断能力が衰えてしまった方がおられる場合には,そのご本人のためにも,また,後日遺産分割協議が無効だったとして効力が覆されないためにも,ご本人さんの利益を代弁する役割を担う成年後見人等の選任をご検討されてみてはいかがかと思います。
最後に,遺言書が残っていた場合(これは不在者のところでお話ししたことと共通するのですが),相続人に分割の話し合いの内容が十分理解できない方がいる場合であっても,遺言書に遺産の分け方を定めておけば,成年後見人等を選任して遺産分割協議をする必要はなくなるということになりますので,他の相続人の方の負担は少なくなるでしょう。
しかし,特に遺産分割協議が必要という場合でなくても,ご本人のために,成年後見制度の利用を検討されることは大切なことだと思います。