法律の豆知識遺言書の必要性について5

前回までのお話しは,遺言書を残していない場合で,①遺産の分け方で合意が形成できなかったり,②相続人の一部の人の所在が不明な場合や③相続人の中に判断能力が衰えている方がいて,分割の話し合いの内容が十分理解できないような場合の3つの場合に関して,お話をしてきました。

以上の3事例では,遺産分割協議において,合意の形成が困難な場合について,お話しをしてきました。

今回も合意の形成が困難な事例のお話しをしますが,私が遺言書さえ残っていればといつも感じる事例について,お話ししたいと思います。

それは,子がいない夫婦の相続に関する問題です。

子供がいない夫婦の片方,例えば夫が亡くなったとします。

この場合の法定相続の順位は,妻と,
①夫の父母(祖父母などの直系の先祖),
②夫の父母(直系の先祖を含む)がいない場合は,夫の兄弟姉妹(その兄弟姉妹のうち夫より先に死亡している人がいる場合は,その子供,夫から見ると甥姪)

が法定相続人となります。

これらの法定相続人は,妻から見れば,自分の血縁者ではありません。親族ではあっても,結婚によって生じた親族になります。誤解を恐れずにいえば,他人ということになるでしょう。

そして,一般に親は子よりも先に亡くなり,兄や姉は弟や妹より先に亡くなることが多いですので,子供のいない夫婦の相続は,一般に妻と夫の兄弟姉妹,甥姪との協議によるのが,多いといえるでしょう。

ご自身の親族関係を考えていただきたいのですが,配偶者の親や兄弟姉妹,甥姪と配偶者の遺産について,話し合うことが容易なことでしょうか?
それは容易なことと仰る方もおられるでしょう。
あるいは,兄弟姉妹や甥姪は自分に相続分を主張しないだろうと思われるかもしれません。

しかし,私が依頼を受けたことがある事案でも,協議をすることが困難と思われるようなものに,何度も遭遇したことがあります。

それは,配偶者の兄弟姉妹がたくさんいる事案です。

例えば,配偶者に4人兄弟がいた場合,自分の血縁ではないその4人と,遺産の分け方を協議しなければなりません。その兄弟の中で既に亡くなっている方がいる場合は,その子供がその亡くなった兄弟の代わりに相続人となります。

4人兄弟全員が既に亡くなっていて,さらにそれぞれに子供が2人いた場合,遺産分割協議は,その甥姪8人としなければなりません。
配偶者から見れば甥姪でも,自分から見たら,一度も会ったことがないとか,どこに住んでいるのかも知らないということもあるでしょう。

法律で相続人が決まっているのだから仕方ないというのは簡単です。

しかし,例えば「妻に全ての財産を相続させる」というような簡単なもの(法律上有効な遺言である必要があることはいうまでもありません。)でもいいので,遺言書さえ残っていれば,残された妻は,配偶者の兄弟姉妹や甥姪と遺産分割協議をする必要もなく,また,そのような遺言の内容に配偶者の兄弟姉妹や甥姪は,口を挟むことができないというのも法律の定めなのです。

昔は,子供ががたくさんいる家族が比較的多かったでしょうし,今は子供がいない家族というのも多いでしょう。

このような時代の境目に,子のいない夫婦のうち,残される夫や妻の余生を思いやるのなら,夫婦ともにご自身の遺言書の作成を検討してみることも,大切な時代になってきているのかもしれません。

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